先日ある女性(Aさん)からこんなお問い合わせがありました。
「英語の勉強のために海外のペンパルサイトで相手を探していたところ、5週間ほど前50代の女性(Bさん)と知り合いイーメールのやり取りを始めました。毎日たわいもないショートメールをかわしていたところ、実は彼女はガンを患っていて、メールも病院からしているということでした。しばらくして1週間ほどメールが来なくなり、心配していたところ、突然弁護士と名乗る人からBさんの死亡を知らせるメールが届き、彼女が残した遺言書の中に私の名前が入っているとのこと。英語の勉強のために気軽に始めただけで、あまりにも突然のことで信じられず、トラブルになりたくなかったので放棄することを2度に渡って伝えました。その後書類が送られてきましたが、とにかく放棄したいのですが書類は無視してもいいでしょうか?」
お問い合わせの中には、弁護士からのメールもあり、Aさんへの分配金額、彼女の住所や電話番号などの個人情報が必要であることが述べられていました。
放棄するためには、正式に放棄するための書類が弁護士から届くはずであることをお伝えし、見せていただいた弁護士から届いたメールの文章中気になる点があったため、弁護士の名前と住所をお尋ねしました。
ほどなくして来たお返事には、Bさんの死を知らせる弁護士からのメールのほか、Aさんと弁護士とのメールのやりとりが転送されてきました。弁護士からのメールには弁護士事務所のレターヘッドがPDFで添付されており、そこには住所と正式な弁護士事務所の名前が載っていました。
最初に私が行ったことは次の3点です。
1.レターヘッドに書かれている住所が本物かどうかを確認しました。
2.弁護士事務所の所在地である州に登録されている弁護士かどうかを確認しました。
3.弁護士の名前をあらゆる検索エンジンでサーチしてみました。
1について、住所はありましたが、そこは低所得者向けの高齢者専用アパートでした。弁護士事務所としての住所を居住地の住所と同じにしていることは100%ないとはいいきれないけど、一般的にはないでしょう。
2について、住所にしている州での登録はありませんでした。他の州で登録している可能性もあるかもしれません。念のため他のいくつかの州でサーチしてみましたが、同名の弁護士はいませんでした。
3について、知り合いの弁護士の場合、みなさん10件以上はヒットしました。少なくても今の時代、弁護士事務所を持っていれば事務所のホームページはありますよね。残念ながら一つもヒットしませんでした。
以上の3点から本物の弁護士かどうかという疑問が残りました。
私が最初に疑いを持ったのは、弁護士のメールの書き方でした。弁護士の文章にはBさんが生前の行動から色んな人に遺産を分配したとしても全然疑うような人物ではなかったことが巧みに書かれていましたが、アメリカでロースクールまで出て弁護士資格をとっているもしくはそのアシスタントが書いたものであっても考えられないような文法上の間違いや誤字がいくつかありました。
さらに、レターヘッドにはメールのアドレスは書かれていますが、何故か電話番号が書かれていません。
怪しいことだらけです。
さっそく以上の状況をAさんにお知らせしたところ、Aさんご自身も何か腑に落ちないことがあったようです。私からの見解でそれがクリアになったとのこと。もうこれ以上弁護士とのコンタクトはとらない、来た場合迷惑メールに入れようと思います、とご返事がありました。
Aさんは相続放棄を前提とされていましたので、最初から詐欺の被害に合うことはなかったと考えられますが、ペンパルだったBさんはメールの中でとても心の温かい人で、さらに電話で話したこともあり、とても素敵な女性だったそうです。会話の中で家族がいないこと、今は未亡人であることはAさんには伝えていたようです。
ですから、おそらくBさんが架空の人物だなんてまったく気づかなかったことでしょう。弁護士の話を鵜呑みにして遺産相続を行う手続きを始めてしまったら、遺産を現金化するための手続き料や海外送金のための手数料などを名目とした金銭をだましとられていたかもしれません。
英語の勉強にと気軽に取った行動が詐欺グループへの扉を開けてしまうなんてAさんのショックは他人事ではありません。私自身過去にいわゆる詐欺まがいの怪しい郵便物やメールが届くことはありましたが、もちろん現実離れしたものだったので、ゴミ箱にポイです。今回のように約1か月にも渡る心温まるメールのやり取りと電話での会話、誰でも信用してしまうでしょう。実はそれは詐欺をするためのすべて嘘だったなんて、相手の気持ちを踏みにじる、なんとも許しがたい行為です。
このような遺産相続を語った国際的な詐欺事件は以前から多発していて、イギリスの日本大使館のホームページ上でも紹介しています。また、日本人が被害に遭いやすいトラブルに関しては外務省のホームページでも詳しく書かれていますのでご参照ください。
万が一、これを読んで同じような状況の方がいらっしゃるかもしれません。それが詐欺かもしれない可能性もあります。「家族がいない、資産家、現在病気で余命いくばくもない、あなたに遺産を残したい」と語る人物から何か連絡があったとしたら要注意です!少しでも疑いや不安がある方は一刻も早く誰かにご相談ください!
最後に、Aさんには今回の件をブログ上に書きたい旨をお伝えしたところ、「注意喚起を促すためにもぜひ書いてください」と快くご理解をいただきました。とても心痛められたにもかかわらずご協力くださり、本当にありがとうございました。